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彼女は300万年以上前の東アフリカに生息した「アウストラロピテクス・アファレンシス」という猿人に属します。
また二足歩行ができたことで知られますが、その歩き方は今日のチンパンジーのようにぎこちないものと考えられてきました。
ところが今回、英ケンブリッジ大学(Cambridge University)の研究により、ルーシーの動きは予想以上に洗練されていた可能性が浮上したのです。
チームがルーシーの骨格から筋肉構造を復元したところ、彼女の脚は現生人類と同じようにまっすぐ直立できたことが判明しました。
ルーシーは私たちと同じようにスタスタ歩けたのかもしれません。
研究の詳細は、2023年6月14日付で学術誌『Royal Society Open Science』に掲載されています。
目次
ルーシーは1974年11月に東アフリカのエチオピアで発見されました。
生存年代は約320万年前に遡り、絶滅したヒト科の化石として最も古い標本の一つとなっています。
これまでに発見されたアウストラロピテクスの化石の中でも特に保存状態がよく、骨格全体の40%が復元されています。
ルーシーは性的成熟に達した若い女性で、身長は1メートル強、体重は28キロ程だったようです。
また脳サイズは私たちの3分の1くらいしかありませんでした。
ただし骨格の構造から二足歩行できたことが指摘されています。
ちなみに「ルーシー」という名前は、ビートルズの名曲「Lucy in the Sky with Diamonds」から付けられたものです。
一方で研究者たちは、ルーシーが二足歩行できたことには同意していますが、その歩き方に関しては意見が分かれています。
特に根強いのが「ルーシーの歩き方は現生人類のようには洗練されていなかった」というものです。
むしろ今日のチンパンジーがするような、中腰のガニ股でぎこちなく歩いていたとする見方が多くあります。
反対に「ルーシーは私たちのように完全な直立二足歩行をしていた」とする意見もあります。
そこで研究チームはこの議論に決着をつけるべく、ルーシーの骨格から筋肉の構造を復元する世界初の試みを行いました。
チームはまず、筋肉の復元に先立って、私たち現生人類の体からスタートしました。
現代の大人の男女の筋肉と骨格をMRIとCTスキャンで撮影し、それぞれの筋肉がどのような経路を通るかをマッピングして、デジタル上で筋骨格系のモデルを構築。
次に、ルーシーの化石標本のオープンソースデータを利用して、骨格の関節を生きていたときの状態に戻しました。
この作業により、ルーシーの各関節がどの方向にどれだけ可動・回転できるかを推定できます。
最後に、先ほどの現代人の筋肉マップと、化石に残るわずかな筋肉のつながりの痕跡をもとに、ルーシーの骨格上に筋肉組織を3Dデジタルで復元しました。
その結果、ルーシーの両脚にそれぞれ36個の筋肉組織が復元されましたが、驚くことに、その筋肉のほとんどが現代人よりも遥かに大きかったのです。
例えば、ルーシーの太ももとふくらはぎの主要な筋肉は、比率に換算すると、現代人の2倍以上の大きさがありました。
また現代人では太ももの総重量の50%が筋肉であるのに対し、ルーシーの太ももでは74%を占めていたのです。
そして最も重要な発見は、ルーシーの膝の筋肉が現代人と同じように「膝関節をまっすぐに伸ばす構造を持っていた」ことでした。
これは彼女がチンパンジーのようなガニ股ではなく、まっすぐに直立できたことを裏付けるものです。
研究主任のアシュレイ・ワイズマン(Ashleigh Wiseman)氏は「この結果は、ルーシーが完全な直立二足歩行ができたとする主張にさらなる説得力を持たせるもの」と話しています。
しかしながら、ルーシーの歩き方が完全に私たちと同じだったわけではないようです。
というのも、彼女の属するアウストラロピテクス・アファレンシスは、東アフリカの開けた草原と、より密な森林のある地域の両方で暮らしていたことが指摘されています。
つまり、ルーシーは地上だけでなく、サルやチンパンジーのように樹上生活にも適応していたはずなのです。
となると、鬱蒼とした樹冠の中でも俊敏に動けるような体をしていたでしょう。
私たちのように縦にスラッと伸びた姿勢では、とても木々の中では生活できませんね。
それを踏まえて、ワイズマン氏は「ルーシーは現在生きているどの霊長類にも見られない方法で歩き、動いた可能性が高い」と述べました。
もしかしたらルーシーは地上にも樹上にも適応した「ターザン」のような身のこなしをしていたのかもしれません。
参考文献
First hominin muscle reconstruction shows 3.2 million-year-old ‘Lucy’ could stand as erect as we can元論文
Three-dimensional volumetric muscle reconstruction of the Australopithecus afarensis pelvis and limb, with estimations of limb leverage