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それぞれの患者さんから得られた部分的なラインを総合してみると、ブラシュコ線は頭頂部から爪先にかけて全身に隈なく走っていることが分かりました。
特に胸から腹部は「S字のような弧」、背中は「V字のような山型」、お尻は「丸い渦」、脚から下は「まっすぐな縦線」という決まった傾向が見つかっています。
後の時代にもいくつかの線が新たに発見され、それを加えて出来た「ブラシュコ線」の模式図がこちらです。
では、このブラシュコ線の正体とは何なのでしょうか?
幸いなことに、ブラシュコ線の正体は今日の科学ですでに突き止められています。
単刀直入にいうと、これは「ヒト胚が発生時に分裂する中で、完全な人体の形に成長するまでに辿った細胞のライン」だったのです。
私たちヒトはすべて、母親の胎内でたった1つの細胞からスタートを切ります。
その細胞は分裂しながら大きく成長していき、あるものは骨や筋肉へ、あるものは臓器や毛髪へと分化していきます。
それと同時に、皮膚細胞も成長して、胎児の全身を覆うように広がります。
ブラシュコ線は、この皮膚細胞が拡張するときにたどった成長のラインだったのです。
具体的には、表皮を作る主な細胞の「ケラチノサイト」と、表皮の奥にあり色素を作り出す細胞の「メラノサイト」の道筋であることが分かっています。
ブラシュコ線を見ると、毛の生え方がそのラインに沿っていることが分かるでしょう。
つむじの渦などもブラシュコ線で説明できると考えられています。
ところが私たちのブラシュコ線は、他の動物のように「目に見える模様」とはなりません。
なぜなら、模様のある動物たちは1個体の中で毛の色を分けられる遺伝的メカニズムをしているのに対し、人間は体の中で皮膚や毛の色を分けるようなシステムにはなっていないからです。
私たちの髪や皮膚は基本的に一色ですが、シマウマやヒョウは複数の毛の色を持つことで模様が浮かび上がります。
そして、その模様の形はブラシュコ線に沿っていると考えられるのです。
しかし一方で、ヒトにおいても体の模様が目に見える形で浮かび上がるケースが稀にあります。
それを次に見ていきましょう。
ヒトのブラシュコ線が可視化されるのは、何らかの遺伝子疾患によって皮膚が部分的に変色した状態で生まれる場合です。
生まれつきの遺伝的な色素異常が原因で、渦やパッチ、モザイク状の模様が皮膚に浮かび上がります。
例えば、実際の症例ではこのような形です。
また模様のタイプによって以下の6つに分類されますが、最もよく観察されるのはType1aと1bです。
Type2〜5は極めて稀なケースで、症例報告もほとんどありません。
ただ、このType2〜5を生じさせる可能性がある例の一つが「キメラ」です。
キメラとは、1人の体に2種の異なる遺伝子セットが融合する珍しい現象で、ヒトでの発生率は10万人に1人とされています。
米カリフォルニア州在住で歌手やモデルとして活動するテイラー・ミュール(Taylor Muhl)さんは、2017年の診断で自身が「キメラ」であることが判明しました。
ミュールさんは生まれつき、腹部の半分が白色で、もう半分が赤色という稀な症状を持っています。
DNA検査の結果、彼女は母親の胎内で双子の姉妹と融合し、2つの異なるDNAが組み合わさって生まれていたことが判明したのです。
つまり、白色の皮膚と赤色の皮膚で遺伝情報が異なることを意味します。
それがおそらく、上のType2か5の模様として現れたのでしょう。
ミュールさんのようにキメラ症状として模様が現れることはほぼありません。
しかし、私たちでもホクロの多いラインや、あるいは何らかの皮膚症状が現れたときには、肌の奥に隠れているブラシュコ線の存在を感じられるかもしれません。
目には見えませんが、私たちの体にもヒョウやシマウマのような模様があるとは驚きですね。
参考文献
Humans Actually Have Secret Stripes And Other Strange Markings https://www.sciencealert.com/humans-actually-have-secret-stripes-and-other-strange-markings元論文
Blaschko lines and other patterns of cutaneous mosaicism https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0738081X10001641?via%3Dihub