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ネズミの尻尾に毛が無い、あるいははえていても非常に薄いのは、主に2つの理由からだと考えられています。
1つ目の理由は「体温調節」です。
体に熱が溜まってしまったネズミたちは、尻尾に温められた血液を流すことで、クールダウンすることが可能になります。
尻尾に毛が生えている場合、外気との温度差が生じにくく、クールダウンの邪魔になってしまいます。
また最新の研究でもマウスが冬眠に向けて体温を冷やしていくとき、温度の高い血液を尻尾に送り冷却する様子が示されています。
2つ目の理由は「第5の肢として使うため」だと考えられます。
ネズミの尻尾は多くの骨が連結しているため非常に柔軟な動きが可能であり、木などに巻き付けることが可能となっています。
さすがにサルの尻尾のように器用に物を掴むことはできませんが、尻尾を巻き付けることで体を固定し、落下防止などに使っていることが知られています。
そのためネズミの尻尾は滑りやすさの原因となる毛が抜けて、皮膚が剥き出しになっていると考えられます。
なぜキツネやウサギの尻尾は幸運を招くお守りにされているのに、ネズミの尻尾は気持ち悪がられるのか?
第1の理由は平均を美しいと感じる心理にあります。
私たちの身の回りにいる可愛らしい哺乳類の多くは、尻尾を含めほぼ全身が毛皮で覆われています。
そのため私たちの意識の中には、可愛らしい動物は尻尾もフサフサであるという認知バイアスが形成されています。
可愛い想像上の動物を描くように子供たちに頼むと、きっと多くはフサフサ尻尾を持つものが描かれるでしょう。
反面、毛のない尻尾を持つネズミはその認知バイアスから外れるため、人々の目に奇怪ものに映るのです。
同じような外見をしていながら、尻尾に毛が生えており、なおかつ先端がフサフサしている砂ネズミが何故か可愛くみえるのも、認知バイアスのたまものと言えるでしょう。
第2の理由も心理的なものとなります。
「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」のことわざのように、人間は好きあるいは嫌いな存在がいると、その存在が持つ部分的な要素も連動して好きまたは嫌いになっていきます。
この現象は心理学的にはハロー効果として知られており、人間に存在する普遍的な心理の1つとなっています。
過去に行われた研究では、このハロー効果が裁判の結果や企業の人事、学校の成績など幅広い分野で猛威を振るっていることが報告されています。
ネズミとその尻尾にも、似たことが当てはまります。
私たちは幼い頃から、ネズミを不衛生な嫌悪すべき存在として教育されてきました。
自分の家の中にネズミの一家が入り込んだとしたら、多くの人はゴキブリと同じように「駆除」を目指すでしょう。
そのためネズミの特徴である毛のない尻尾も、同時に嫌悪の対称となったと考えられます。
同様の「坊主憎けりゃ…」に関連する心理は、昆虫の触覚にも存在します。
たとえば上の図のように2種類の触覚がある場合、どっちの触覚が不人気になるでしょうか?
多くの人々にとって、左側の長い触覚は(たとえ体が描かれていなくても)ゴキブリを思い起こさせるため、不人気となります。
あまり知られていませんが、生物学者にとってネズミの尻尾はとても重要なパーツとなっています。
毛がなく皮膚が剥き出しになった尻尾は動物実験をする上で非常に有用となるからです。
たとえば生物学の実験ではマウスやラットから採血したり、薬剤を投与する手順が数多く含まれていますが、そのどちらも尻尾の血管を通じて行われています。
DNAを調べるのに必要な血液も、がん細胞を打ち込むのも、ウイルス感染を起こすのにも、尻尾の血管を介して行われています。
またマウスの尾の皮膚細胞をもとにiPS細胞を作成し、精子や卵子をなどを作る実験も盛んに行われています。
そのため現代では、マウスやラットを使ったあらゆる実験は、彼らの尻尾を介した操作から無縁ではいられません。
マウス実験を行う研究室に入った学生たちが最初に教わる技術も、マウスの尻尾に注射する方法となっています。
そういう意味では、現代科学の一端はネズミの尻尾によって支えられていると言えるでしょう。
参考文献
What Is the Halo Effect? https://www.verywellmind.com/what-is-the-halo-effect-2795906 What Is Cognitive Bias? 7 Examples &Resources (Incl. Codex) https://positivepsychology.com/cognitive-biases/元論文
Examining the Prospective Bidirectional Associations between Subjective and Objective Attractiveness and Adolescent Internalizing Symptoms and Life Satisfaction https://link.springer.com/article/10.1007/s10964-022-01700-7