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現在地球上に生息する両生類は大きくカエル・サンショウウオ・アシナシイモリの3種類(群)に分かれています。
カエルやサンショウウオは比較的身近な生物ですが、アシナシイモリはめったに遭遇しない、極めて謎につつまれたグループとなっています。
その外見は巨大ミミズと言って差し支えないものであり、大きな種になると全長2メートルにも達するものが存在します。
しかしアシナシイモリはミミズと違ってれっきとした脊椎動物であり、その頭部は重厚な骨で覆われていることが知られています。
また主に枯れ葉を食べるミミズとは違ってアシナシイモリは貪欲な捕食者であり、虫だけでなくときには小型の脊椎動物も食べることがあります。
狩りの方法もさまざまであり、一部の種は水の塊を打ち出すテッポウウオのような特技を持ちます。
現在知られているアシナシイモリは約215種ほどとなっていますが、主な生息地が熱帯地方の地中となっており、発見は容易ではありません。
そのためカエルやサンショウウオなどに比べて大きく研究が遅れていました。
そこで今回、ノッティンガム大学の研究者たちは3種類のアシナシイモリの遺伝子を解読し、他の22種類の脊椎動物と比較しました。
結果、アシナシイモリにだけ存在する1150種類の遺伝子グループを発見します。
それらの多くは地中生活に適応するための嗅覚に関連した遺伝子であるようでした。
しかし最も注目すべきは、脊椎動物の多くに存在するZRSエンハンサーと呼ばれる遺伝子活性化機能が存在しないことでした。
ZRSエンハンサーはソニック・ヘッジホッグ遺伝子を活性化することで、脊椎動物に手足を形成するのに極めて重要な役割を果たします。
ソニック・ヘッジホッグ遺伝子とは、動物の体のどこに何ができるかを指示するプランナーとして機能しており、手足もこの遺伝子の働きを受けて形成されます。
ゲームが好きな人には「おや?」と思わせるネーミングですが、これは発見者がSEGAのファンだったためと言われています。ただ完全な悪ふざけな名前というわけではなく、最初に発見された際、この遺伝子をノックアウトさせた変異体がハリネズミのような姿になったためだとも言われています。
実際の経緯が不明確になりつつありますが、ちょっとふざけて名前を付けてしまったら思っていたより重要な遺伝子で、後にあちこちで引用されるようになってしまったのがソニック・ヘッジホッグ遺伝子のようです。
余談はともかく、ZRSエンハンサーの働きについては、マウスの遺伝子を操作して破壊した場合、生まれてきた赤ちゃんマウスの手足を著しく小さくすることが知られています。
同様のZRSエンハンサーの変異が起きて手足を失った生物として「ヘビ」が知られています。
ヘビとアシナシイモリは3億年以上前に分岐した進化的に遠い生物です。
そのため研究者たちはヘビとアシナシイモリに起きたZRSエンハンサーの変異はそれぞれの種で独立して発生したものだと結論しています。
系統的に大きく異なる種が同じ遺伝子の変異によって手足を失うというのは極めて珍しいケースと言えます。
通常、異なる生物が似た体の特徴を獲得することを収斂進化と呼びます。
収斂進化には昆虫のケラと哺乳類のモグラの手が似たような形をしているなどの例が存在しますが、アシナシイモリとヘビも、同様に隔たりのある生物の間で起きた非常に珍しい収斂進化の例といえるでしょう。
独立した生物群でそれぞれに似たような遺伝子変異が起きたというのは興味深い事実ですが、アシナシイモリがなぜ手足を失ったかの理由は、まだ明確ではありません。
元論文
Caecilian genomes reveal the molecular basis of adaptation, and convergent evolution of limblessness in snakes and caecilians https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2022.02.23.481419v2.full