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このようにユニークな特徴の多い動物ですが、中でも特に注目されるのは両目が左右に離れて位置していることです。
これは捕食性の哺乳類とは一線を画す点です。
通常、チーターやライオン、ネコのような捕食者は両目が顔の前方に付いており、獲物の位置や距離感、奥行きを把捉するのに役立つ立体視(3D)を可能にしています。
対して、ガゼルやウシ、ウマのような草食の被食者は、左右の目が外側に離れて付いていることがほとんどです。
これは視野を広げて、天敵の接近をいち早く察知するメリットがありますが、前方の立体視には劣ります。
よってティラコスミルスは目の配置が草食の被食者に近いので、前方の立体視ができなかった可能性があるのです。
そこで研究チームは、約300万年前に絶滅した「ティラコスミルス・アトロックス(Thylacosmilus atrox)」の頭蓋骨をCTスキャンして、立体視できたかどうかを探ることにしました。
CTスキャンの結果、まず分かったのは長大な剣歯のせいで顔の前面に両目を置くスペースがなかったことでした。
先に言ったように、ティラコスミルスの剣歯は一生成長しつづけるため、成熟個体になると、剣歯の根元が頭蓋骨の上部にまで達していました。
つまり、鼻筋から額を通って頭部まで伸びる剣歯によって目が顔の外側に追いやられたのです。
さらにチームは、他の絶滅および現生の肉食哺乳類の頭蓋骨をスキャンし、目の配置から、左右の視野が重なる角度を比較しました。
すると他の捕食者ではだいたい50〜65度だったのに対し、ティラコスミルスはわずか35度に留まったのです。
下図の左からティラコスミルス、スミロドン(サーベルタイガーの一種)、ティラコレオ(絶滅したフクロライオン)、フクロオオカミです。
目が横方向についているならば、この角度では相当寄り目にしなければ正面を見ることは難しい印象を受けます。
では、やはりティラコスミルスは前方への立体視はできなかったのでしょうか?
しかし研究主任のシャルレーヌ・ガイヤール (Charlène Gaillard)氏は「良好な立体視は、単に目の配置だけでなく、眼窩内の眼球をどれだけ前方に向けられるかにも依存する」と指摘します。
そこでティラコスミルスの眼窩の角度を調べたところ、他の捕食者に比べて、眼窩が外側に突き出し、顔の側面とほぼ垂直に(つまり前方に)向いていることが分かったのです。
これにより眼窩内の眼球を可能な限り前方に向けられると推定されました。
下図は上からティラコスミルス、ティラコレオ、スミロドンです。
これを考慮した結果、ティラコスミルスの視野の重なりは70度近くに達すると算出されました。
同チームのアナリア・フォラシエピ(Analia Forasiepi)氏は「これは明らかに活発な捕食者として成功するのに十分な視野である」と述べています。
となるとティラコスミルスは、捕食者と被食者の両方を兼ね備えた優れた視野の持ち主だったのかもしれません。
参考文献
How the ‘marsupial sabertooth’thylacosmilus saw its world https://phys.org/news/2023-03-marsupial-sabertooth-thylacosmilus-world.html Ancient marsupial sabertooth had eyes like no other mammal predator https://www.livescience.com/ancient-marsupial-sabertooth-had-eyes-like-no-other-mammal-predator Ancient “Marsupial Sabertooth” Likely Saw in 3D https://www.amnh.org/explore/news-blogs/research-posts/ancient-marsupial-sabertooth-likely-saw-in-3d元論文
Seeing through the eyes of the sabertooth Thylacosmilus atrox (Metatheria, Sparassodonta) https://www.nature.com/articles/s42003-023-04624-5