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過去の研究によると、やる気を促すドーパミン神経細胞は、期待通りかそれ以上にうまくいったときに放出量が増え、失敗や期待外れに終わったときに減ることが知られています。
しかしこの通りだとすると、私たちはなぜ失敗を乗り越えて再度やる気を奮い立たせることができるのでしょうか。
そこで研究チームは、いまだ知られていない「期待外れに対して逆に活動が増すようなドーパミン細胞」が存在するのではないかと仮説を立て、研究を開始することにしました。
実験ではラットを使い、成功するか不確定な行動にラットが挑戦をし続けられるかを検証しました。
この実験に使われた装置では、ラットがレバーを押した後に特定の音が鳴り、それを聞いた後に今度はレバーを引くと報酬の「甘い水」が出てきます。
ただし、レバーを押したあと鳴る音が「音1」の場合は100%報酬が得られますが、「音2」では50%、「音3」では0%です。
たとえば、音2で報酬が出なかった場合、ラットはレバーを押し戻して再チャレンジできます。
この研究では、上述の装置を使いラットがたまたま報酬を得られず「期待外れ」に直面しても、次の報酬獲得に向けて行動を切り替え再チャレンジするようにラットを訓練していきました。
つまり、ラットはこの実験装置で”失敗にめげない心”を養うことができたのです。
そしてチームは、再チャレンジに気持ちを切り替えるときのラットのドーパミン神経細胞の活動をミリ秒〜秒単位の時間精度で計測しました。
そして「期待外れ」が生じたにもかかわらず、その直後に活動が増すドーパミン細胞を世界で初めて発見したのです。
この期待外れに反応する神経細胞は意外と多く存在し、チームが計測したドーパミン神経細胞の約半数を占めていました。
さらに、「期待外れ」が生じた直後にドーパミン量が増加する脳部位は、前脳に存在する神経細胞の集まり「側坐核(そくざかく)」であることを特定。
側坐核は報酬・快感・嗜癖・恐怖に重要な役割を果たすと考えられる場所です。
そこでラットの「期待外れ」が生じる瞬間に、側坐核へのドーパミン神経回路の活動を人工的に刺激したところ、期待外れを乗り越える行動を促進することができたのです。
以上の結果からチームは、動物には「期待外れ」を乗り越える能力を支えるためのドーパミン神経細胞とその回路が存在すると結論づけました。
私たちの脳には、失敗や落胆に反応して、逆にやる気を奮い立たせるような脳機能が秘められていたようです。
この成果は、意欲機能に対するドーパミンの新たな役割を解明し、やる気を促す脳のメカニズムの常識を変える革新的な成果です。
心が折れずに再チャレンジに挑めるかどうかは個人差があり、それが将来のスキルアップにも影響しますが、こうしたメカニズムが明確になれば、努力が苦手な人たちも、その性格を改善できるようになるかもしれません。
この新たな知見は将来的に、意欲が異常に低下するうつ病や逆に異常に増加する依存症など、精神・神経疾患の新たな理解や治療法の開発につながることが期待されます。
参考文献
目標に向けて努力し続けられる脳の仕組みを解明―期待外れを乗り越えるためのドーパミン機能― https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2023-03-13元論文
Dopamine error signal to actively cope with lack of expected reward https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.ade5420