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これまでの取り組みでは主に、ガスを生成しにくい餌に変えたり、メタン生成を止めるための化学物質を与えたりしていました。
しかし、メタンを生成する細菌は化学物質に対してすぐに耐性を持つようになります。
また、メタン生成菌の増殖を阻害する薬剤の開発も試みられましたが、これらは牛の生理的な機能に悪影響を及ぼし、乳量の減少などを引き起こす可能性があるのです。
そのため、なるべく化学物質を使わずに、牛や環境にやさしい新たなアプローチが必要とされていました。
WSUの研究チームは以前から、牛の反芻胃のメタン生成菌に対抗する新たな方法を模索し続けています。
その中で、カンガルーの腸内にメタン生成菌ではなく、酢酸の生成菌がいることを発見しました。
そこでチームはカンガルーから糞サンプルを採取し、その中にいる微生物を詳しく分析。
すると、酢酸を生成する特殊なプロセスは大人にはなく、カンガルーの赤ちゃんにしか存在しないことを特定したのです。
チームはこの酢酸生成菌を牛の胃に移植することで、メタン生成菌に取って代わることが可能なのではないかと考えました。
早速チームは、牛の反芻胃を模した人工胃による実験を開始。
この人工胃はチームが牛の消化プロセスをシミュレートするために作成していたものです。
今回の試みでは、糞サンプルから酢酸生成菌のみを特定して単離することができなかったため、その細菌を含んでいる糞中の微生物叢から培養液を作成することに。
実験ではまず、人工の反芻胃に既存のメタン抑制剤を投入して、ある程度メタン生成菌を減らした後、酢酸生成菌を含む培養液を投与しました。
その結果、酢酸生成菌はメタン生成菌を抑制しながら、それらと同等の増殖スピードで増えていき、数カ月のちには完全にメタン生成菌に取って代わったのです。
人工胃の中ではメタンの発生がなくなり、酢酸が生成されている様子も確認されました。
酢酸は筋肉の成長を促進する働きがあるため、牛にとってもメリットがあると考えられます。
研究主任のバージット・アーリング(Birgitte Ahring)氏は「今回得られた培養液は非常に優れた効果があり、近いうちに、実際の牛の反芻胃でも実験を行いたい」と話しています。
今後の研究の結果次第では、赤ちゃんカンガルーのうんちが環境問題に対する意外な解決策になるかもしれません。
参考文献
Baby kangaroo fecal microbes could reduce methane from cows https://news.wsu.edu/press-release/2023/02/14/kangaroo-fecal-microbes-could-reduce-methane-from-cows/#:~:text=A%20microbial%20culture%20developed%20from,acetic%20acid%20instead%20of%20methane. Baby kangaroo poop may hold the key to reducing cows’methane emissions https://newatlas.com/environment/baby-kangaroo-bacteria-cows-methane-emissions/元論文
Reducing methane production from rumen cultures by bioaugmentation with homoacetogenic bacteria https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S1878818122002535?via%3Dihub