- 週間ランキング
フィンランド・タンペレ大学(Tampere University)工学自然科学部に所属するハオ・ゼン氏ら研究チームは、タンポポの綿毛から着想を得た「人工妖精」を開発しました。
わずか1.2mgの飛行ロボットは、光を受けて羽を開閉し、風と共に遠くへ飛んでいくことができます。
将来的には、植物の受粉を助ける「送粉者」の役割を果たせるかもしれません。
研究の詳細は、2022年12月27日付の科学誌『Advanced Science』に掲載されました。
目次
植物の花粉を運んで受粉を手助けする動物や昆虫を「送粉者」「花粉媒介者」と呼びます。
近年では、ミツバチなどの送粉者が減少傾向にあり、今後、食料生産や生物多様性に大きな影響を与える恐れがあります。
人類は新たな送粉者を探さなければいけないのです。
ゼン氏ら研究チームは、その役割をロボットが果たせないかと考えました。
そして彼らは、風の力で遠くまで漂う「タンポポの綿毛」から着想を得て、指先サイズの「妖精みたいな飛行ロボット」を開発したのです。
彼らはこのロボットを「人工妖精」と呼んでいます。
人工妖精の可動部には、「光応答性の液晶エラストマー」が利用されています。
液晶エラストマーは棒状の分子が規則正しく並んだ素材であり、外部の刺激(温度、光、電場、磁場など)によって配列が変化するという特性があります。
またゴム弾性も持っています。
これらの特性により、液晶エラストマーは以前から人工筋肉としての役割が期待されており、今回、人工妖精の部品として光に反応するタイプが使用されました。
人工妖精に光を当てると、その美しい羽(14μmの繊維の集まり)が開閉するのです。
とはいえ、これで羽ばたいて空を飛ぶわけではありません。
人工妖精はタンポポのように風の力を受けて受動的に空中を漂います。
光で開閉する羽は、この際風の受け方をある程度コントロールする目的で利用されます。
例えば、レーザー光線やLEDを使って意図的に人工妖精の離着陸を制御できます。
また野外の日光に対応して、自動的に羽を広げて飛んでいくことも可能でしょう。
しかし液晶エラストマーで開閉する羽があるだけでは、このロボットは本物の綿毛のように遠くまで飛んでいけません。
次項では、タンポポの綿毛を模倣した他の機能を紹介します。
タンポポの種(繊毛を含む)1つの重量は、種類によって差がありますが、だいたい0.4~1.5mgだと言われています。
手に乗せても実感できないほどの軽さが、「風に乗る」秘訣なのです。
同様に、開発された人工妖精の重量はわずか1.2mgと、タンポポの綿毛とほとんど重さは変わりません。
ではタンポポの綿毛はなぜ、あの構造で長距離を風で移動することができるのでしょうか?
タンポポの綿毛は、多数の細孔(小さな穴)が空いたような構造となっており、綿毛の上方に渦輪(環状の空気の渦)が作られるようになっています。
この渦輪は、綿毛(冠毛)の隙間を通り抜ける空気と外側を通る空気の圧力差で発生します。
この渦が揚力を生むことで、綿毛は長く飛び続けることができるのです。
研究チームは、人工妖精でもこの渦輪が発生するようデザインしました。
このメカニズムのおかげで、人工妖精はタンポポの綿毛のように風の力で十分な揚力を得ることができます。
タンポポの綿毛は、その種を10~100kmも運ぶことがあります。
研究チームは人工妖精がバッテリーなしで、同様の飛行が可能だと考えています。
将来的には、花粉を抱えた数百万の人工妖精が、送粉者としてはるか遠くまで飛んでいくことを期待できます。
とはいえこれを実現させるためには、なすべき多くの課題や調査が残っています。
現在研究チームは、2026年8月まで続くプロジェクトの中で、人工妖精に生分解性を持たせる方法や、着地場所をより正確に制御する方法を探しています。
参考文献
A fairy-like robot flies by the power of wind and light元論文
Dandelion-Inspired, Wind-Dispersed Polymer-Assembly Controlled by Light