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まず、天井・床の鏡が覆われていると、ミツバチは一定の高度を保ちながら、楽々とゴール地点まで到達しています。
天井だけを鏡にした場合、トンネルの高さは2倍に見えますが、この条件でもミツバチは特に影響を受けずゴールまで到達できました。
ところが、床だけを鏡にし、下方向への距離が2倍になった途端、ミツバチの墜落事故が起き始めたのです。
こちらが、その時の実験映像です。
最初は普通に飛んでいたミツバチが、40センチを過ぎたところで急激に高度を下げ、鏡に激突。
その後も、安定した飛行姿勢を取り戻せず、磁力に引っ張られるように床にぶつかり続けました。
また、天井と床の両方を鏡にして、上下方向に無限の高さをつくると、ミツバチはわずか8センチ飛んだだけで墜落しています。
さらに、天井・床の前半部のみを覆ったところ、後半の鏡ゾーンに入った途端、墜落が発生し始めました。
チームは、この結果について、「ミツバチは腹側(地上方向)にある視覚的サインを利用して、安定した高度維持をしていることが証明された」と話します。
つまり、湖面のさざ波や波紋、地面、花や木々といった目印を(自分との距離を測るための)基準点にして、高度を維持していたのです。
一方、眼下のサインを見失って、高度維持できなくなる現象は、パイロットに時々見られる「空間識失調」とよく似ています。
航空機が厚い雲や濃霧の中を飛行すると、地上のサインが見えなくなるため、パイロットは一時的に飛行速度や進行方向がわからなくなり、機体のバランスを保てなくなるのです。
そんなとき、パイロットは機体の計器に頼って、安定した飛行を維持します。
残念ながら、ミツバチにそのようなバックアップシステムはありません。
「それゆえ、ミツバチは眼下の視覚的サインを取り戻せるかどうか確かめるため、高度を下げていたのです」と、研究者は説明します。
そこで下が鏡面になっていると、そのまま空間が広がっていると勘違いして、激突していたのです。
なので、もし実験中のミツバチがより広い視野を与えられていたら、何かしらのサインを見つけて、高度を回復できたでしょう。
また興味深いことに、ミバエで同様の実験をしたところ、眼下の視覚的サインを失っても墜落することはありませんでした。
したがって、安定した飛行の維持は、昆虫の種類によって、用いる技術が違うことを示唆します。
ただミツバチの場合は、地上のサインがなくなると、墜落は避けられないようです…
※この記事は2022年公開のものを再掲載しています。
参考文献
There’s a Really Weird Effect When Honeybees Fly Over a Mirror
https://www.sciencealert.com/honeybees-go-crashing-into-the-ground-if-they-fly-over-a-mirror
HONEYBEES FLYING OVER A MIRROR IRREMEDIABLY CRASH
https://www.univ-amu.fr/en/public/actualites/research-honeybees-flying-over-mirror-irremediably-crash
元論文
Floor and ceiling mirror configurations to study altitude control in honeybees
https://royalsocietypublishing.org/doi/full/10.1098/rsbl.2021.0534
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。