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愛する人とのボディタッチにはざまざまなメリットがあると報告されています。
例えば、抱きしめられたり手を握られたりすると、血圧が下がったり安心感が得られたりするのです。
また2007年の研究では、パートナーにマッサージされた女性は、ストレスを感じやすい状況でもコルチゾールのレベルが低いと報告されています。
コルチゾールとは、人がストレスを受けたときに脳から多く分泌されるホルモンです。
コルチゾールの分泌が慢性的に多くなると、うつ病や不眠症、精神疾患につながるとさえ言われています。
つまり愛する人のボディタッチには、ストレスを低下させる確かな効果があるのです。
では、パートナーと呼べる人がいない場合でも、同様の効果は得られるのでしょうか?
またコロナ禍にあって人との接触を避けたい場合、自分で自分を抱きしめたり触ったりする「セルフタッチ」に頼ることはできるのでしょうか?
研究チームは、これらの疑問を解決するため、実験を行うことにしました。
実験には平均年齢21歳の成人159人が参加しました。
参加者には、それぞれスピーチと数学の課題を行ってもらい、準備の時間を含めてストレスを感じるよう誘導しています。
そしてスピーチを行う前に、次の3つのグループに分けられました。
②の「セルフタッチ」グループは、タッチの方法も指定されました。
片手を心臓の上に置き、もう片方の手を腹部に置くようにしたのです。
ちなみに③のグループは、①②と比較するために、ボディタッチを行わない20秒ほどの作業(紙飛行機の作成)を行いました。
実験中、すべての参加者はストレスの誘発に応じて、コルチゾールレベルを上昇させていきました。
ところが、①見知らぬ人との抱擁や②セルフタッチを行ったグループは、コルチゾールレベルが低下。
しかも一番効果が高かったのは、②のセルフタッチを行ったグループだったのです。
そこに愛がなかったとしても、抱きしめる感触は人に安心感を与えてくれるようです。
しかし、見知らぬ人より、セルフタッチの方が効果が高かったというのは興味深い発見です。
研究チームは、タッチがストレスを軽減させる理由を2点挙げています。
1つは、触覚によって迷走神経や副交感神経系の活動が刺激され、ストレス反応が調整されるというもの。
もう1つは、触ることが社会とのつながりや安心感などを強く感じさせ、精神的な安定をもたらすというものです。
研究の結論として、ドライソーナー氏は次のように述べました。
「まず、人を抱きしめたり触ったりすることは、ストレスに対処するのに役立つと言えます。
例えば、試験や面接、病院での診察の際に、ハグしたりタッチしたりするのは効果的です。
またセルフタッチでも同様の効果が得られます。
例えば、右手を心臓に、左手をお腹の上に置いて、その温かさや圧迫感に意識を集中させるなら、ストレスに対処できるでしょう」
そして今回の実験でセルフタッチの方が抱擁よりも効果が高かった理由は、「抱擁の相手が愛する人ではなく見知らぬ人だったから」だと推測しています。
信頼関係のない相手や愛情の伴わない抱擁では、相手に対する警戒心や不快感が生じる可能性があり、結果的にストレス低下効果が十分に発揮されないと考えられるのです。
そのためベストは愛する人からの抱擁ですが、自分ひとりでストレスと戦わなければいけない場合は、自分自身で自分を抱くセルフタッチが良い選択肢になるようです。
相手がいなくて寂しい時は少しの間だけでも、自分を両手で抱きしめてあげてくださいね。
参考文献
Receiving a hug or engaging in self-soothing touch reduces cortisol levels following a stressful experience
https://www.psypost.org/2021/11/receiving-a-hug-or-engaging-in-self-soothing-touch-reduces-cortisol-levels-following-a-stressful-experience-62168
元論文
Self-soothing touch and being hugged reduce cortisol responses to stress: A randomized controlled trial on stress, physical touch, and social identity
https://doi.org/10.1016/j.cpnec.2021.100091
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
海沼 賢: 大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。