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猫の飼い主さんなら、誰でも足の臭いを嗅がせた、理由はわからないが臭いを嗅がれたことがあるはずです。
猫が目を見開き、口を半開きにして「くっさ!」。数秒間固まったあと、「でももう一回嗅いでみたい。やっぱ、くっさ!」というのを、実物や動画で見たこともありますよね。
そんな顔をされたら飼い主さんとしては、「自分の足はそれほど臭かったのか」と落ち込む事でしょう。
そして同時に「変な顔をするほど臭いのに、どうして何度も嗅ぐのだろう」と思うのではないでしょうか。ですがこれには、きちんとした理由があったのです
フレーメン反応は馬や羊、鹿などの蹄のある動物でも観察されます。
馬などでは上体を起こして首が伸び、歯や歯茎が現れ嘲笑しているように見えます。
ドイツ語の「嘲笑う」(Lachen:ラッヘン)仕草(上唇をまくれ上がらせる)のザクセン古方言(フレーメン)が、名詞として使われたのが語源らしく、「フレーミング、フレーメニング」とも言われます。
猫の仲間では、トラやライオン、そして犬も理由があってこの表情をします。
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猫などには鼻の嗅覚以外に、鋤鼻器(じょびき)あるいはヤコブソン器官と言われる嗅覚器があります。
ようするに、いつもは使っていないもうひとつの「鼻」ですね。この器官の吸入口があるのは、ふだん閉じられている口の中です。猫や馬がこの器官に臭いを引き入れようとすると、口がぽかんと開いたフレーメン顔になります。
つまり「その匂いが臭いからフレーメン反応をする」のではなく、「その匂いをもっと嗅ごうとしてフレーメン反応をする」のです。
オスの理由は発情期の確認
猫ではオスにフレーメン反応がよく見られます。哺乳動物のメスには性周期があり、発情期を逃さず交尾しなければ繁殖できません。この理由から、オスはメスの性フェロモン臭をしっかり嗅ぎ分ける必要があります。
そのため鋤鼻器を使ってよく嗅ごうとすると、まるでショックを受けたようなあの顔になるのですね。
マーキングの確認猫が飼い主さんに頭突きしたり、体をスリスリしたりするのは自分の臭い(フェロモン)を付けるのが主な理由です。
自分の縄張り内にマーキングし、臭いを嗅いで確認するのが猫の習性です。オス猫が反応するもうひとつのフェロモンは、尿の臭い成分です。
メス猫が発情するときに発するフェロモンは、ラクトンと総称される環状の有機化合物です。
またオス猫が縄張りでする尿スプレーの臭い成分は、硫黄を含むチオール化合物です。足の臭い成分も同じ硫黄を含むチオール化合物なので猫が反応し、よく嗅ごうとしてフレーメン反応を起こします。
猫のおしっこ齢臭成分はノネナールなどのアルデヒド化合物で、雑巾の悪臭です。
残念なお知らせですが、女性の足の臭い成分はバクテリアなどによるチオール成分が多いので、チーズ臭と言われます。チーズ菌の作用と同じ理由で、似た臭いがします。
つまり「お父さんの加齢臭がくさい!」と非難する娘さんのブーツの蒸れた足の臭いは、猫のおしっこに似た臭いだと、猫が変顔で非難しているわけです(?)
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猫のリラックス効果のあるマタタビやキャットニップに含まれるのは、ラクトン化合物で猫の性フェロモンに似た化合物です。植物は受粉の助けが必要なとき、この成分で猫を惹きつけて利用します。
植物成分は必要なときだけ働き、すぐに体内から離れるので作用は一時的です。ある種の植物を加熱するとできる麻薬成分は、構造が似ていますが体内から離れにくいという理由で作用が持続するので有害です。
猫が不安なために尿スプレーなどの問題行動を起こすとき、フェロモン物質(商品名フェリウェイ)を噴霧して安心させることで、問題行動を止めさせることができる場合もあります。ただ去勢や避妊した猫には、効きにくいようです。
一見すると嗅いだ臭いに対しての反応に思える「フレーメン反応」ですが、実際には「匂いをより嗅ぐ」ための行動であり、匂いで情報を識別している猫の習性の一つである事がわかりました。
人間にもヤコブソン器官の痕跡はありますが、神経伝達機能は退化していると言われます。
人間では、昆虫や猫のように速効性のある媚薬フェロモンはありません。しかし人間にも性周期があり、本能に根ざす行動原理があります。だから異性の気を惹くのに有効な香料の使い方もあります。いつか機会があれば、ご紹介しましょう。