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岸田文雄首相肝入りの「新しい資本主義実現会議」は2021年11月8日、政府の経済対策(19日にも策定)に向けた緊急提言を発表した。ただ、その中身は安倍晋三、菅義偉政権で打ち出された既存政策の焼き直し感が否めず、内容の乏しいものになった。
緊急提言は「成長戦略」と「分配戦略」の2本柱で構成。「成長と分配の好循環」という首相お決まりのキャッチフレーズに沿ったものだが、実際には菅政権が6月に打ち出した成長戦略の内容を「成長」「分配」に再配置しただけのものが大半を占める。
一方で18歳以下の子どもに対する現金給付(10日に自公協議で合意)など与党内の調整が残っていた政策や、金融所得課税の強化をはじめ物議をかもした政策についてはほとんど触れられなかった。結果、無難な内容のオンパレードになったわけだ。
緊急提言を突貫工事で仕上げざるを得なかったのには、事情がある。
「本日の会合では貴重な意見を頂いた。みなさまの意見を踏まえながら、岸田内閣が最優先で取り組むべき項目を緊急提言として取りまとめた」
岸田首相は11月8日の会合でこう述べたが、これは「誇大表現」と言っていいだろう。
政府が同会議の初会合を開いたのは投票を目前に控え総選挙真っ只中の10月26日。経済3団体のトップをはじめ15人の民間有識者も参加したが、緊急提言までに民間からの意見を組織的に聴取した形跡はない。
岸田首相は自民党総裁選の当時から、「数十兆円規模の経済対策を実施する」と公言しており、首相就任後は経済対策の取りまとめを最優先事項としてきた。その対策に「岸田カラー」を反映させたという既成事実を作るために会議の緊急提言という体裁をとり、官僚が中身を「作文」したというのが実態に近い。
実際に、緊急提言のポイントを説明した経済産業省出身の事務局幹部は「民間有識者の意見はどこに反映されているのか」と記者に問われ、「完全に一致しているわけではない」と認めざるを得なかったほどだ。
そもそも、「新しい資本主義」はアベノミクスの光が当てられてこなかった人たちに目を向ける岸田カラーの象徴だったはずだ。しかし、その具体化を図る、新しい資本主義実現会議の参加者や事務局内でさえ「新しい資本主義」とはどういうものなのか、イメージが共有されていない。
会議という「箱」は作ったものの、岸田首相自身のビジョンが明確でないため、従来の成長戦略をたたき台にするしかなかったのが実情だろう。
霞が関では、もともと会議の迷走を懸念する声が少なくなかった。ある省庁の幹部は緊急提言の中身を見て、冷ややかにこう語った。
「経済対策ありきで打ち出しただけの完全なお手盛り。首相が訴える『新しい資本主義』の底の浅さが露呈した」
(ジャーナリスト 白井俊郎)
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