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【7本目】食品に始まり、雑貨、クルマ......。相次いで身の回りのモノが値上がりし、気づくとステルス値上げしていることも珍しくない。
説明するまでもなく急速に進んでいるインフレによるものだが、改めてこれがインフレかと身に染みる思いだ。足元の米長期金利の推移をみると、複数回の利上げによるインフレ抑制のシナリオが織り込まれている水準といえるが、金利差のみならず逆資源国通貨としての側面もあわさり、当面「米国金利高+ドル高円安+コモディティ高」は日本に直撃し、その影響は計り知れない。
近所のガソリンスタンドの価格も見るたびに上がり、7年ぶりの高値という異常事態になっている。日銀の「2%の物価上昇」目標に向けて動き出したと手放しに喜べるはずもなく、ディマンドプルインフレよりも、明らかにコストプッシュインフレの側面が強く出ている。
石炭・エネルギーを中心に住宅資材や衣類などを傘下に抱え、東証第1部に上場する三井松島ホールディングス(HD、福岡市)に、注目した。
三井松島ホールディングスはこれまで、「安定収益」「ニッチ市場」「わかりやすい」をキーワードに、確実に新規事業への投資を進めてきた。連結のEBITDA推移をみると、生活関連事業のEBITDAは着実に増加し、生活関連事業が上回り、直近の石炭市況を除けば、今後もその傾向は強まるとみられる。2022年3月期1Q決算でも、生活関連事業のセグメント利益寄与はエネルギー事業を上回っている。
中期経営計画では24年3月期に、非石炭生産事業のみで連結営業利益33億円を目指しており、足元の計画達成度も順当なことから、達成可能な範囲の目標値であり、完全なる脱石炭に向けて期待が高まる。連結貸借対照表においても、D/Eレシオ 0.78倍など十分今後の事業拡大の余地はあるだろう。
また、事業の拡大一色ではなく、2012 年に取得したリゾート型宿泊施設の運営、保養所の運営受託などを手がけ、安定的に業績に寄与してきた株式会社M&M サービスの全保有株式を2020年には譲渡(売却)し、多額の特別利益を計上するなど、事業の選択も考慮している。
この動きの指揮を執るのが、吉岡泰士社長(1969年生まれ)で、歴史のある大企業のトップとしては比較的若い。JPモルガン証券、デロイトトーマツFAS、GCAなど長年にわたるM&Aアドバイザリー業務の豊富な経験と知見を有していることから、今後の事業拡大・再編には期待できよう。
この一連の事業ポートフォリオ再構築は一定の成功がみられるもの、今後の課題はグループシナジーだろう。現時点でも、一部でノウハウ共有・人材交流・部材供給などはあるものの、十分なシナジー効果とは言い難い。また、石炭事業で創業し、長年の歴史があるからこそ今後どのような事業を軸に成長シナリオを描いているのか不明瞭だ。この点、産経新聞の取材に、吉岡社長は「今はイメージを固める段階ではない。何の会社かを掲げることが大事ではなく、各事業分野で頭一つ飛び抜けている会社を集め、単独では目立たなくても、どれかがなくなっても日本が困る、プロフェッショナルな企業の集合体としたい。ホールディングスとしては、そのグループ経営のプロでありたい。」としている。
ただ、投資ファンドではない以上、今後のシナジーと成長ビジョンを投資家にいかに伝え、コングロマリット・ディスカウントに向き合うかが問われそうだ。
参考リンク:「石炭事業撤退も選択肢 吉岡泰士・三井松島HD社長」産経新聞2021年8月16日付)直近の石炭市況と会社の事業拡大・再編をあわせて、考えたい。石炭市況は急騰後、足元では急落などボラティリティの高い状態が続いているが、歴史的には高値圏にあり、業績に対する市場の期待の高さが株価の動向をみればわかる。
気象庁エルニーニョ監視速報(2021年10月11日付)によれば、「ラニーニャ現象時の特徴に近づきつつある」ともされ、天気の変動に注意が必要だ。寒波が到来した場合、電力高騰化で次々新電力倒産したことで記憶にも新しいが、パイプラインの設置が難しい島国である日本にとっては安定的なエネルギー源確保が課題だ。
LNGなど他のエネルギーは備蓄能力には限界があるため、石炭が再度脚光を浴びることも予想される。冬を越しても、脱炭素と安全保障の構造そのものが足元の価格高騰化を招いていることを鑑みれば、長期化の可能性がないわけでもない。
ただし、石炭消費の縮小は再エネ拡大などで今後ますます進み、この市況は一過性というのが主なシナリオだろう。一過性であれ、今般の石炭市況で上振れた利益を成長投資に生かすことこそが成長のドライバーであり、前出の元お笑い芸人で著名個人投資家の井村俊哉氏の期待するところなのではないか。
今回の問題の発端ともなった脱炭素をどう捉えるだろうか。環境問題への対応という側面と同時に、安全保障に依存しないエネルギー源確保という意味でも意義がある。他方で、脱炭素は補助金ありきの構造、再エネ関連製品・設備シェアは中国に大きく依存、再エネ賦課金やエネルギー価格高騰化は国民全員で負担している側面もある。
再エネの一層の加速には、ベースロード電源の確保が優先される。原発再稼働するのか、どれくらい火力発電を残存させるのか(日本の火力発電は世界最高水準の発電効率で活用の余地は大きい)など課題は山積みだ。
エネルギーは戦争の発端となるほど極めてセンシティブな問題にもかかわらず、今回の資源高+通貨安という逆資源国としての脆弱性が如実に表れた。
配当・優待の妙味、脱炭素への期待はあるものの、エネルギー危機のさなかでは、石炭市況と事業拡大・再編を見極めるため、三井松島HDの株式購入は様子見とした。
三井松島HD(1518)
年初来高値(2021年10月18日) 1785円
年初来安値(2021年 1月 4日) 700円
直近の株価(2021年11月 8日) 1389円
株式購入は見送り
◆企業分析バトル カブ大学対抗戦のルール学生投資連合USIC
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